はじめに:契約書管理の課題とクラウド型契約ツールの必要性
企業活動において契約書は非常に重要な文書です。しかし、多くの企業では契約書の作成から管理までのプロセスが非効率なままとなっています。紙ベースでの契約書管理では、以下のような課題が生じています:
- 保管場所の確保:紙の契約書は物理的なスペースを必要とし、保管コストがかかる
- 検索の手間:必要な契約書を探すのに時間がかかる
- 更新管理の煩雑さ:契約期限の管理や更新手続きの漏れが発生しやすい
- セキュリティリスク:紛失や火災などのリスクがある
- テレワーク対応の難しさ:リモートワーク環境では契約書の確認や承認に時間がかかる
- 印紙税などのコスト:紙の契約書には印紙税が発生するケースが多い
これらの課題を解決するため、近年では「クラウド型契約ツール」の導入が急速に進んでいます。2025年の現在、テレワークの定着やDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速により、契約書のデジタル化・クラウド管理は企業の競争力維持に欠かせない要素となっています。
本記事では、法務部門も安心して使えるクラウド型契約ツールの選び方とおすすめツール5選を紹介します。
クラウド型契約ツールのメリット
クラウド型契約ツールを導入することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。主なメリットは以下の通りです:
1. コスト削減
- 印紙税の削減:電子契約では印紙税が不要になるケースが多い
- 郵送費・印刷費の削減:契約書の印刷・送付コストがゼロに
- 保管スペースの削減:物理的な保管場所が不要に
- 人件費の削減:契約管理に関わる業務時間が大幅に短縮
2. 業務効率化
- 契約締結スピードの向上:契約締結までの時間が大幅に短縮(数週間→数日、または数時間)
- 検索性の向上:過去の契約書をキーワードで即座に検索可能
- 承認フローの効率化:社内の承認プロセスがスピードアップ
- 契約更新の自動通知:期限切れが近づくと自動でアラートを受け取れる
3. コンプライアンス強化
- 契約書の一元管理:散在していた契約書を一箇所で管理できる
- アクセス権限の管理:閲覧・編集権限を細かく設定できる
- 監査証跡の確保:いつ、誰が、どのような操作をしたかを記録
- テンプレート活用による標準化:法務部門が承認した契約書テンプレートの活用で法的リスクを低減
4. テレワーク対応
- 場所を選ばない利用:インターネット環境があればどこからでもアクセス可能
- スマートフォン対応:外出先からもスマホで契約書の確認・承認が可能
- リモートワーク環境での業務継続:オフィスに行かなくても契約業務を遂行できる
5. 法的効力の確保
- 電子署名法への対応:多くのツールが電子署名法に準拠
- タイムスタンプによる証明:いつ契約が締結されたかを証明可能
- 改ざん防止機能:契約締結後の改ざんを防止
これらのメリットは、企業規模や業種を問わず、多くの企業で実感されています。特に近年の働き方改革やBCP(事業継続計画)の観点からも、クラウド型契約ツールの導入は重要な経営戦略の一つとなっています。
契約書管理のワークフロー
クラウド型契約ツールを導入すると、契約書管理のワークフローはどのように変わるのでしょうか。従来のプロセスと電子契約のプロセスを比較してみましょう。
従来の契約プロセス(紙ベース)
- 作成:Wordなどで契約書を作成
- 印刷:契約書を印刷
- 確認・修正:内容確認、修正があれば再度印刷
- 承認:社内での決裁・承認
- 押印:社印を押印
- 郵送:相手先に郵送
- 相手先での押印:相手先が押印
- 返送:相手先から返送
- 保管:契約書を保管庫に保管
- 更新管理:Excelなどで契約情報を管理
クラウド型契約ツールを使ったプロセス
- 作成:テンプレートから契約書を作成
- 確認:内容をオンラインで確認・修正
- 承認:社内の決裁者がオンラインで承認
- 電子署名:自社の電子署名を付与
- 相手先へ送信:システム上で相手先へ送信
- 相手先の電子署名:相手先がシステム上で電子署名
- 自動保管:締結された契約書が自動的にシステムに保管
- 自動更新通知:契約期限が近づくと自動でアラート
このように、クラウド型契約ツールを導入することで、プロセスの大幅な簡略化と効率化が実現します。特に複数の関係者による承認が必要な場合や、大量の契約を扱う企業ほど、その効果は大きいと言えるでしょう。
クラウド型契約ツール選びのポイント
多くのクラウド型契約ツールが登場している中、自社に最適なツールを選ぶためには、以下のポイントを確認することが重要です。
1. 機能面のチェックポイント
- 対応する契約形態:自社で多く扱う契約形態(売買契約、業務委託契約など)に対応しているか
- テンプレート機能:よく使う契約書のテンプレートが用意されているか、自社テンプレートの登録が可能か
- ワークフロー設定:自社の承認フローに合わせた設定が可能か
- 検索機能:契約書の全文検索が可能か、検索精度は高いか
- 通知機能:契約期限などの重要なイベントを適切に通知してくれるか
- バージョン管理:契約書の改訂履歴を管理できるか
- AI機能:契約書の自動レビューなどのAI機能はあるか
2. セキュリティ面のチェックポイント
- データ暗号化:通信やデータは適切に暗号化されているか
- アクセス権限管理:細かな権限設定が可能か
- 監査ログ:操作履歴がしっかり記録されるか
- セキュリティ認証:ISO27001やSOC2などの認証を取得しているか
- データセンターの冗長性:データのバックアップ体制は整っているか
3. 法的要件のチェックポイント
- 電子署名法への対応:電子署名法に準拠しているか
- タイムスタンプ:第三者機関によるタイムスタンプが付与されるか
- 電子帳簿保存法への対応:長期保存の要件を満たしているか
- 各国法制度への対応:国際契約を扱う場合、各国の法制度に対応しているか
4. 使いやすさと導入のしやすさ
- ユーザーインターフェース:直感的に操作できるか
- モバイル対応:スマートフォンやタブレットでの操作性は良いか
- 導入サポート:導入時のサポート体制は充実しているか
- 無料トライアル:導入前に試せるか
- 多言語対応:必要な言語に対応しているか
5. 連携性と拡張性
- 他システムとの連携:既存の基幹システムやCRMなどと連携できるか
- API提供:カスタム連携のためのAPIは提供されているか
- 拡張性:将来的な機能拡張の可能性はあるか
6. コスト面
- 料金体系:初期費用、月額費用、追加費用などの構成
- スケーラビリティ:利用者数や契約数の増加に応じた柔軟な料金体系か
- コストパフォーマンス:機能と料金のバランスは適切か
これらのポイントを踏まえて、自社の業務内容や規模、予算に合ったクラウド型契約ツールを選定することが大切です。
おすすめクラウド型契約ツール5選
以下、企業規模や用途別におすすめのクラウド型契約ツール5選を紹介します。
1. クラウドサイン(弁護士ドットコム株式会社)
主な機能:
- 電子契約の締結
- 契約書のクラウド一元管理
- 相手側アカウント不要で署名可能
- ワークフロー組み込み
- 視覚的な承認状況管理
料金:
- ライトプラン:月額10,000円~
- コーポレートプラン:月額28,000円~
- 初期費用なし
特徴: クラウドサインは日本国内で250万社以上の導入実績を持つ電子契約システムです。特に国内企業向けのサービスとして設計されており、日本の商習慣や法体系に適したUI/UXを提供しています。相手方がクラウドサインのアカウントを持っていなくても契約を締結できる点が大きな特徴で、取引先への負担が少ないのが魅力です。
おすすめのケース:
- 多数の取引先と契約を交わす企業
- 日本国内での契約が中心の企業
- 初めて電子契約を導入する企業
2. DocuSign(ドキュサイン・ジャパン株式会社)
主な機能:
- 電子署名・電子契約
- ワークフロー自動化
- 多数のクラウドサービスとの連携
- グローバル対応(180以上の国)
- 高度なセキュリティ機能
料金:
- Personal:月額1,208円(年契約の場合)
- Standard:月額3,100円(年契約の場合)
- Business Pro:月額4,850円(年契約の場合)
- 初期費用:要問い合わせ
特徴: DocuSignは世界150万社以上が利用するグローバルスタンダードの電子署名サービスです。Microsoft Office、Google Workspace、Salesforceなど多数のクラウドサービスとの連携が強みで、既存のITインフラとシームレスに統合できます。複数の国をまたぐ契約にも対応しており、国際取引が多い企業に最適です。
おすすめのケース:
- グローバル展開している企業
- 既存のクラウドサービスとの連携を重視する企業
- 高度なセキュリティ要件がある企業
3. 電子印鑑GMOサイン(GMOグローバルサイン・ホールディングス)
主な機能:
- 電子署名と電子サインの併用締結
- クオリファイド電子署名(法的効力の高い電子署名)に対応
- 電子帳簿保存法対応
- テンプレート登録機能
- 詳細な検索機能
料金:
- お試しフリー:無料
- 契約印&実印プラン:月額8,800円(税抜)
- 初期費用なし
特徴: GMOサインは日本の電子認証局大手のGMOグループが提供するサービスで、350万社以上の導入実績があります。特に高い法的効力を持つクオリファイド電子署名を利用できる点が特徴で、官公庁や金融機関などセキュリティと信頼性に厳しい業界での採用も多いです。無料プランが提供されているため、小規模事業者でも手軽に導入できます。
おすすめのケース:
- 法的効力の高さを重視する企業
- 官公庁や自治体との取引が多い企業
- 段階的に電子契約を導入したい企業
4. マネーフォワード クラウド契約(株式会社マネーフォワード)
主な機能:
- 紙と電子の契約書一元管理
- 柔軟なワークフロー設定
- 詳細な権限設定
- Slack等への進捗通知
- マネーフォワードの他サービスとの連携
料金:
- 要問い合わせ(保管書類の量が増えても費用が変わらない特徴あり)
特徴: マネーフォワード クラウド契約は、会計・経費精算・給与計算などのバックオフィス業務を効率化するマネーフォワードクラウドシリーズの一つです。同シリーズの他のサービスとの連携が容易で、バックオフィス業務全体の効率化を図れます。特に紙と電子の両方の契約書を一元管理できる点が特徴で、段階的な電子化に適しています。
おすすめのケース:
- マネーフォワードの他サービスを利用している企業
- 紙契約と電子契約の併用を考えている企業
- 管理する契約書が多い企業
5. LegalForce(株式会社LegalOn Technologies)
主な機能:
- AI自動契約書レビュー
- 契約書データベース作成
- 不利条項・欠落リスク自動チェック
- 条文ひな形管理
- バージョン比較
料金:
- 要問い合わせ(法務組織の規模に応じた人数ベース課金)
特徴: LegalForceは、AIによる契約書レビュー支援に特化したサービスです。契約書の内容をAIが自動解析し、リスクの高い条項や不足している条項を指摘してくれます。法務部門の業務効率化だけでなく、契約書のレビュー品質の向上にも貢献します。契約書管理機能と組み合わせることで、過去の契約書をナレッジ化し、将来の契約締結に活かすことができます。
おすすめのケース:
- 法務部門の負担軽減を図りたい企業
- 契約書のレビュー品質を向上させたい企業
- 複雑な契約を多く扱う企業
導入事例:成功企業の声
クラウド型契約ツールの導入により、多くの企業が業務効率化やコスト削減に成功しています。以下、実際の導入事例をいくつか紹介します。
事例1:建設業A社(クラウドサイン導入)
課題:
- 年間約1,000件の請負契約を紙で管理
- 印紙税と郵送費のコストが高額
- 契約書の保管スペースが圧迫
- 施工現場との契約書のやり取りに時間がかかる
導入効果:
- 印紙代で年間約350万円のコスト削減
- 契約締結までの時間が平均10日から2日に短縮
- 紙の保管スペースが不要に
- 現場担当者がタブレットで契約書を確認できるようになり、業務効率が向上
事例2:IT企業B社(DocuSign導入)
課題:
- グローバル取引が多く、国際間の契約書のやり取りに時間がかかる
- 複数の言語での契約書管理が煩雑
- 契約書の版管理が困難
導入効果:
- 国際間の契約締結が平均5日から1日に短縮
- 多言語対応により、言語の壁を解消
- 版管理が容易になり、最新の契約書が即座に確認可能
- Salesforceとの連携により、顧客情報と契約情報を一元管理
事例3:製造業C社(GMOサイン導入)
課題:
- 取引先が多岐にわたり、契約書の形式もさまざま
- 電子契約への理解が低い取引先も多い
- 法的効力への不安
導入効果:
- クオリファイド電子署名により、法的効力に対する不安を解消
- 無料プランの活用で、取引先にも負担なく導入
- 段階的に電子契約の割合を増やし、3年で約70%の契約を電子化
- 紙から電子への移行過程もスムーズに管理
事例4:小売業D社(マネーフォワード クラウド契約導入)
課題:
- 複数の店舗での契約管理が煩雑
- 各店舗での契約内容に統一感がない
- 本部での契約情報の把握が困難
導入効果:
- 全店舗の契約情報を一元管理
- テンプレート機能により、契約内容の統一化を実現
- マネーフォワード クラウド会計との連携で、会計処理も効率化
- テレワーク環境でも契約業務をスムーズに遂行
事例5:金融業E社(LegalForce導入)
課題:
- 複雑な契約書のレビューに多大な工数
- 法務担当者の負担が大きい
- レビュー品質のばらつき
導入効果:
- AIによる自動レビューで、初期チェックの工数を約60%削減
- レビュー品質の標準化を実現
- 過去の契約書のナレッジ化により、よりよい条件での契約締結が可能に
- 法務担当者が戦略的な業務に集中できるようになった
これらの事例からも分かるように、クラウド型契約ツールの導入は、業種や企業規模を問わず、大きな効果をもたらします。特に、導入前の課題を明確にし、それに適したツールを選ぶことが成功の鍵となっています。
まとめ:自社に最適なクラウド型契約ツールの選び方
クラウド型契約ツールは、契約業務の効率化だけでなく、企業のDX推進やリスク管理の強化に大きく貢献します。以下のステップに沿って、自社に最適なツールを選びましょう。
1. 自社の課題を明確にする
まずは現状の契約プロセスにおける課題を洗い出しましょう。以下のような点を考慮します:
- どのような契約書を扱うことが多いか
- 月間/年間の契約数はどれくらいか
- 課題は何か(時間・コスト・リスク管理など)
- 特に改善したいプロセスはどこか
2. 必要な機能を整理する
自社の課題解決に必要な機能を整理します:
- 契約書作成、レビュー、承認、締結、管理のどの段階を効率化したいか
- 他システムとの連携は必要か
- グローバル対応は必要か
- レビュー機能は必要か
3. 予算を検討する
投資対効果を考慮し、適切な予算を設定します:
- 初期導入コスト
- 月額/年額費用
- 追加オプションの費用
- ROI(投資対効果)の試算
4. 複数のツールを比較検討する
本記事で紹介した5つのツールを含め、複数のツールを比較検討します:
- 機能面での比較
- コスト面での比較
- サポート体制の比較
- 導入実績の比較
5. トライアルを活用する
可能であれば、無料トライアルや説明会を活用して実際の使い勝手を確認します:
- ユーザーインターフェースは直感的か
- 必要な機能は使いやすいか
- 社内の承認フローに適合するか
- モバイル対応は十分か
6. 段階的な導入計画を立てる
一度にすべての契約を電子化するのではなく、段階的な導入計画を立てることも重要です:
- パイロット部門や特定の契約タイプから導入
- 社内ユーザーと社外ユーザーへの教育計画
- 紙契約から電子契約への移行スケジュール
- 成果測定の方法
クラウド型契約ツールの導入は、単なるツール導入ではなく、業務プロセスの改革です。導入によって得られるメリットを最大化するためには、自社の課題やニーズに合ったツールを選び、計画的に導入を進めることが大切です。
また、法的要件やセキュリティ面も十分に考慮し、法務部門や情報システム部門と連携しながら進めることをおすすめします。クラウド型契約ツールの導入は、企業の競争力強化と持続可能な成長に大きく貢献する戦略的な投資となるでしょう。