はじめに:経費精算の課題と経費精算ツールの重要性
経費精算業務は、多くの企業にとって時間と手間のかかる煩雑な作業です。領収書の管理、申請書の作成、承認プロセス、会計システムへの入力など、複数のステップが存在し、その過程でミスが発生するリスクも高くなります。特に紙ベースの処理が中心となっている企業では、こうした課題がより顕著です。
経理担当者にとっては毎月の精算処理に追われ、申請者(従業員)にとっては手間のかかる煩わしい業務、承認者(管理職)にとっては内容確認が負担となるなど、組織全体の生産性に影響を与えています。また、2024年のインボイス制度導入や電子帳簿保存法の改正により、適切なデータ管理の重要性はさらに高まっています。
このような背景から、クラウド型経費精算ツールの導入が進んでいます。専用システムを活用することで、申請から承認、精算、データ保管までをデジタル化し、業務効率の大幅な向上と人的ミスの削減が可能になります。経費精算ツールは単なる業務効率化だけでなく、経営判断のためのデータ分析や内部統制の強化にも寄与する戦略的なツールとなっているのです。
本記事では、経営者の視点から選ばれた経費精算ツール5選を紹介し、選定ポイントや導入メリット、成功事例を解説します。
経費精算ツールを選ぶポイント
経費精算ツールを選ぶ際には、自社の規模や業務フローに合わせた選定が重要です。主なポイントは以下の通りです。
1. 自社に合った入力(補助)機能があるか
経費精算には一般経費、交通費、出張費・旅費、交際費など様々な種類があります。自社で特に利用頻度が高い経費タイプに対応した機能が充実しているツールを選ぶことが重要です。例えば:
- OCR(光学文字認識)機能:領収書をスマホで撮影するだけで金額・日付・支払先などを自動で読み取り
- 交通系ICカード連携:定期区間も自動的に控除
- クレジットカード明細連携:法人カードと連携して自動で経費データを取得
- 乗換案内連携:出発地と目的地を入力するだけで経路と運賃を自動計算
2. ワークフロー機能は十分か
申請から承認までのプロセスを効率化するワークフロー機能は、経費精算ツールの中核となる機能です。以下のような機能が充実しているかをチェックしましょう:
- 柔軟な承認経路設定:金額や費目に応じて承認者を変更できるか
- 自動チェック機能:規定違反や二重申請を自動検知
- 承認状況の可視化:申請者が承認状況をリアルタイムで確認できるか
- 通知機能:申請・承認・差し戻し時に自動通知されるか
3. 他システムとの連携性
経費精算ツールだけで業務が完結することは少なく、会計ソフトや給与システム、勤怠管理システムなど、他のバックオフィスシステムとの連携が重要です:
- 会計ソフトとの連携:仕訳データの自動連携
- 振込データの作成:FBデータ(ファームバンキングデータ)の自動作成
- 給与システムとの連携:精算金額を給与に自動反映
- API連携の充実度:外部サービスとの連携の柔軟性
4. コンプライアンス対応
法令対応は経費精算ツール選びの重要なポイントです:
- 電子帳簿保存法への対応:スキャンした領収書の原本廃棄が可能か
- インボイス制度への対応:適格請求書の管理機能
- 内部統制機能:不正防止や監査対応のための機能
5. コストパフォーマンス
料金体系は各ツールによって異なります。単純な月額費用だけでなく、以下の点も考慮しましょう:
- ユーザー数に応じた料金体系:利用人数に応じて増減するか
- 機能ごとの従量課金:必要な機能だけ選択できるか
- 導入・運用支援:初期設定やサポート体制は充実しているか
経営者が選ぶ経費精算ツール5選
業界シェアや導入実績、企業規模別のニーズを考慮して、経営者に支持されている経費精算ツール5選を紹介します。
1. 楽楽精算(株式会社ラクス)
特徴:国内累計導入社数トップクラスを誇る経費精算システム。豊富な入力支援機能・チェック機能のほか、既存の申請書を再現できる申請画面や、会計ソフトに合わせた仕訳データを出力機能が充実しています。電子帳簿保存法に対応し、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証も取得しています。
主な機能:
- 領収書のOCR読み取り機能
- 乗換案内連携
- 交通系ICカード連携
- クレジットカード連携
- 自由なレイアウト設計とワークフロー
メリット:専任担当者による導入サポートがあり、紙や自社システムからクラウドへの切り替えがスムーズです。多機能でありながら使いやすいインターフェースが特徴で、申請者・承認者・経理担当者それぞれの負担を軽減します。
価格:月額30,000円~、初期費用100,000円
2. Concur Expense(株式会社コンカー)
特徴:SAPグループが提供する経費精算システムで、世界150カ国44,000社以上、日本でも中堅・大手を中心に1,620社超の導入実績があります。経費精算を「楽にする」のではなく「無くす」というコンセプトで開発されており、外部サービスとの連携が非常に豊富です。
主な機能:
- 法人クレジットカードやPayPayなど決済サービスとの連携
- 交通系ICカードやタクシー配車アプリとの連携
- 宿泊予約サイトやカーシェアサービスとの連携
- 名刺情報管理サービスとの連携
- グローバル対応(多通貨・多言語)
メリット:外部サービスとの連携により経費の自動取得が可能で、申請作業自体を削減できます。グローバル展開している企業や多拠点展開している企業に特に適しています。
価格:月額30,000円台~(50ユーザーまで)、初期費用なし~
3. TOKIUM経費精算(株式会社TOKIUM)
特徴:領収書を撮影して専用ポストに投函するだけで、入力・突き合わせなども代行してくれるユニークなサービス。複数のオペレーターが入力・照合・確認し、システムの自動化だけでは実現できない効率化をサポートします。
主な機能:
- 申請から承認までスマートフォンで完結
- 電子帳簿保存法に準拠した電子保存
- 領収書原本の突合・データ化・保管・廃棄までの一括代行
- アカウント数無制限(追加料金なし)
- 充実した導入・運用サポート
メリット:経費精算作業を丸ごと代行できるため、業務にかける時間を約10分の1に削減できます。経理部門の負担を劇的に減らしたい企業に最適です。
価格:月額10,000円~+領収書の件数に基づく従量課金制
4. ジョブカン経費精算(株式会社DONUTS)
特徴:シリーズ累計25万社以上、有料ユーザー数300万人超の導入実績を誇るクラウドサービス「ジョブカン」シリーズの経費精算システム。シンプルで使いやすい操作性と低価格が特徴です。
主な機能:
- 交通費明細や仕訳・FBデータの自動作成
- 柔軟な承認ルート設定
- 電子帳簿保存法対応
- スマホ撮影・スキャナ取込によるデータ化
- 同シリーズの勤怠管理、給与計算、ワークフローなどとの連携
メリット:低コストながら必要な機能を備えており、スモールビジネスからスタートしやすいシステムです。他のジョブカンシリーズと併用することで、バックオフィス業務全体の効率化が可能です。
価格:月額400円/ユーザー
5. マネーフォワード クラウド経費(株式会社マネーフォワード)
特徴:会計・給与・人事労務などのバックオフィス業務を広くカバーする「マネーフォワード クラウド」シリーズの経費精算システム。同シリーズとの連携による業務効率化が強みです。
主な機能:
- 銀行・クレジットカード・電子マネーなど2,300以上のサービスとの連携
- 領収書の自動読取(手書きは代行入力も可能)
- 会計・給与との自動連携
- 費目や部門ごとの経費分析機能
- 電子帳簿保存法対応
メリット:マネーフォワードの各種サービスと連携しやすく、バックオフィス業務全体の効率化が可能です。特に中小企業の経理業務の効率化に貢献します。
価格:月額500円~/ユーザー(プランによる)
経費精算ツール導入による成功事例
経費精算ツールの導入により、多くの企業が業務効率化に成功しています。いくつかの代表的な成功事例を紹介します。
事例1:株式会社ヤオコー(TOKIUM経費精算導入)
課題:従業員約3万人の経費精算を紙ベースで行っており、経理精算業務の手間と時間の負担が大きく、入力ミスや紙の紛失も頻発していました。
解決策:TOKIUM経費精算システムを導入し、経費処理をデジタル化。
効果:
- 経費処理の工数を全体で約600時間削減
- 年間5万枚の紙を削減
- 紙運用に伴うミスやトラブルが解消
- スマートフォンから手軽に申請・承認できるようになり、精算の遅延が解消
事例2:株式会社土屋鞄製造所(TOKIUM経費精算導入)
課題:経費精算システムと紙の運用を併用しており、業務が混乱。経理に申請書が回ってきてから保管までの作業に時間がかかっていました。
解決策:グループ全体でTOKIUM経費精算システムを導入し、全ての業務をシステム上で統一的に運用。
効果:
- 経理処理を2営業日分削減
- 交通費などの自動入力により金額ミスが減少
- 領収書原本の突合とファイリング時間を大幅削減
- クラウド上で承認作業が可能になり、承認の遅延を解消
事例3:大手スポーツ専門店
課題:年間約3万件の請求書と領収書の処理が紙ベースで非効率。電子帳簿保存法への対応も課題となっていました。
解決策:経費精算システムを導入し、ペーパーレス化を実現。
効果:
- 法制度への対応と年間約3万件の請求書と領収書をペーパーレス化
- 従業員の生産性が向上
- 経理業務の効率化により、戦略的な業務に注力できるようになった
事例4:株式会社理経(TOKIUM経費精算導入)
課題:手書き伝票による経費精算で転記ミスが多発。外出の多い社員にとって大きな負担となっていました。
解決策:TOKIUM経費精算を導入し、デジタル化を推進。
効果:
- 経費の申請・承認を約1分に短縮
- 手書きミスが大幅に減少
- 時間や場所を問わず申請・承認が可能になり、働き方の選択肢が増加
- 経理部の負担が軽減され、他の業務に注力できるようになった
経費精算ツール導入のワークフロー改善とメリット
経費精算ツールの導入により、従来の紙ベースやExcelベースのワークフローが大きく改善されます。主なメリットは以下の通りです。
申請者(従業員)のメリット
- 申請時間の短縮:スマホで撮影するだけで申請できる
- 立替負担の軽減:法人カード連携で立替そのものを削減
- 申請状況の可視化:承認状況がリアルタイムで確認可能
- いつでもどこでも申請可能:出張先や移動中でも申請できる
承認者(管理職)のメリット
- 承認作業の効率化:スマホやPCからワンクリックで承認
- 内容確認の簡素化:領収書画像と申請内容を同時に確認
- ルール違反の自動検知:システムが規定違反を自動チェック
- 場所を選ばない承認:外出先からでも承認作業が可能
経理担当者のメリット
- 手入力作業の削減:データが自動で集約されるため転記不要
- チェック作業の効率化:システムによる自動チェック機能
- 会計システムとの連携:仕訳データの自動作成・連携
- 支払処理の自動化:FBデータの自動作成
- ペーパーレス化:紙の保管スペース削減とデータ検索の効率化
経営者・管理者のメリット
- コスト削減:経費処理にかかる工数削減による人件費節約
- 透明性の確保:経費使用状況の可視化
- 不正防止:システムによるチェック機能により不正を防止
- 経営判断の迅速化:リアルタイムでの経費データ分析
- コンプライアンス強化:法令対応の自動化
まとめ:自社に最適な経費精算ツールの選び方
経費精算ツールは単なる業務効率化ツールにとどまらず、経営戦略を支える重要なシステムとなっています。自社に最適なツールを選ぶためには、以下のポイントを考慮しましょう。
企業規模による選定
- 小規模企業(〜50名程度):ジョブカン経費精算やマネーフォワード クラウド経費など、ユーザーあたりの料金体系のツールがコスト効率に優れています。
- 中規模企業(50〜300名程度):楽楽精算やTOKIUM経費精算など、機能の充実度とコストのバランスが取れたツールが適しています。
- 大規模企業(300名〜):Concur Expenseなど、グローバル対応や内部統制機能が充実したツールが望ましいでしょう。
業種・業態による選定
- 営業活動が多い企業:交通費精算機能が充実したツールが有利です。
- 出張が多い企業:ビズバンスJTB経費精算やConcur Expenseなど、出張管理機能に強みのあるツールがおすすめです。
- 製造業・小売業:在庫管理や販売管理システムとの連携が重要になります。
導入ステップ
- 現状分析:現在の経費精算プロセスの課題を洗い出す
- 要件定義:必要な機能や連携システムを明確にする
- 製品比較:複数の経費精算ツールを比較検討する
- トライアル:実際に試用して使い勝手を確認する
- 導入計画:段階的な導入計画を策定する
- 教育・周知:利用者へのトレーニングと周知徹底
- 運用・改善:導入後も継続的な改善を行う
経費精算ツールは、単に経理業務の効率化だけでなく、従業員の働き方改革や経営判断の迅速化にも貢献します。自社の課題や目的に合ったツールを選定し、適切に運用することで、ミス削減と工数削減を両立し、企業全体の生産性向上に繋げることができるでしょう。
多くの経費精算ツールは無料トライアルを提供しているため、実際に使ってみて自社に合うかどうかを確認することをおすすめします。導入後のサポート体制も含めて総合的に判断し、長期的なパートナーとなるツールを選びましょう。