はじめに
「経営の一翼を担いたい」「スタートアップの成長に貢献したい」という思いはあるものの、現在の安定した職を手放すリスクに躊躇する方も多いのではないでしょうか。近年、そうした方々に新たな選択肢が広がっています。それが「副業CxO」です。
「副業CxO」とは、現職を続けながら、スタートアップ企業で経営幹部としての役割を担うキャリアスタイルです。特に経営管理領域では、CFO(Chief Financial Officer)やCOO(Chief Operating Officer)などのポジションで、副業から経験を積むケースが増えています。
この記事では、副業から始めるスタートアップ経営管理の可能性、そのメリット・デメリット、成功するためのポイントについて解説します。すでに会計や経営管理のスキルを持ち、スタートアップでの挑戦を考えている方にとって、新たなキャリアの選択肢となるでしょう。
副業CxOの台頭 – なぜ今、副業からの経営参画が注目されているのか

日本のスタートアップ市場が拡大する中、CxOポジションの需要も急増しています。特に、スタートアップ企業におけるCxOポジションの求人は年間約5,850件に達しているとされます。その中でも、CTO・COO・CFO・CMOポジションの需要が特に高くなっています。
しかし、実際には多くのスタートアップが、以下のような課題に直面しています:
- 人材不足: 経験豊富なCxO人材の絶対数が少ない
- コスト制約: シード・アーリーステージの企業では、フルタイムのCxOを雇用する財務的余裕がない
- マッチングの難しさ: 企業文化やビジョンの相性を見極める時間が必要
これらの課題を解決する選択肢として、「副業CxO」というキャリア形態が注目されているのです。
副業CxOのメリット – 企業と個人、双方にとっての価値
副業CxOの形態は、スタートアップ企業と個人の双方にメリットをもたらします。
企業側のメリット
- 専門スキルの獲得: 必要な専門知識や経験を持つ人材を比較的低コストで確保できる
- 柔軟な契約形態: フルコミットではなく、業務委託として柔軟な関係構築が可能
- 段階的な関係構築: 相性を見極めたうえで、将来的な正社員登用の判断ができる
- 経営知見の導入: 大企業やコンサルティングファームでの経験を持つ人材から、体系的な経営管理ノウハウを学べる
個人側のメリット
- リスク管理: 現職を維持しながら、スタートアップ経営に携わる経験を積める
- スキル検証: 自身の専門スキルを実践的な環境で試しながら、キャリアの可能性を探索できる
- ネットワーク構築: スタートアップエコシステム内での人脈形成ができる
- 経営視点の獲得: 大企業では得られにくい、経営者に近い視点での意思決定に関われる
- 社会的インパクト: 成長企業の支援を通じて、社会変革に貢献できる
副業CxOに適した経営管理ポジションと業務内容
スタートアップにおいて、副業から始めやすい経営管理ポジションとしては、主に以下のようなものがあります:
1. 副業CFO(Chief Financial Officer)
主な業務内容:
- 財務戦略の策定と実行
- 予算管理と財務計画の立案
- 資金調達の支援(投資家向け資料作成、デューデリジェンス対応など)
- 経営管理のKPI設定とモニタリング
- 財務報告体制の構築
必要なスキル:
- 会計・財務の専門知識
- 事業計画策定能力
- 投資家とのコミュニケーション能力
- リスク管理の視点
時間的コミットメント: 週5〜15時間程度(フェーズによって変動)
2. 副業COO(Chief Operating Officer)
主な業務内容:
- 業務プロセスの設計と最適化
- 組織構造の設計と人材配置
- 経営資源の分配と優先順位づけ
- KPIの設定と管理
- クロスファンクショナルな課題解決
必要なスキル:
- 組織マネジメント経験
- プロジェクト管理能力
- 分析力と問題解決能力
- チームビルディングのノウハウ
時間的コミットメント: 週10〜20時間程度
3. 副業経営企画責任者
主な業務内容:
- 経営戦略の立案と実行計画策定
- 事業計画・予算策定
- 経営会議の運営
- 各種レポーティング体制の構築
- M&A・PMIに関する戦略立案
必要なスキル:
- 戦略立案能力
- データ分析スキル
- プレゼンテーション能力
- クロスファンクショナルなコミュニケーション能力
時間的コミットメント: 週8〜15時間程度
副業CxOとして成功するための5つのポイント
副業でスタートアップの経営管理に携わる際、以下のポイントを意識することで、より効果的に価値を提供し、自身のキャリア構築にもつなげることができます。
1. ミッション・ビジョンへの共感
副業とはいえ、関わる企業のミッション・ビジョンに共感することが重要です。共感なくして長期的な関係構築は難しく、困難な局面で踏ん張れる原動力にもなります。興味のある業界や社会課題に取り組むスタートアップを選ぶことで、モチベーションを維持しやすくなります。
2. 明確な役割と期待値の設定
副業開始時に、具体的な役割、期待される成果、時間的コミットメントについて明確に合意しておくことが重要です。曖昧な状態で始めると、双方の認識のズレから関係が悪化するリスクがあります。
実践ポイント:
- 契約書や業務委託契約書で役割と責任を明文化する
- 月間・四半期ごとの具体的な成果物を設定する
- 定期的な振り返りの機会を設ける
3. 時間管理と優先順位づけ
副業は本業と両立させる必要があるため、効率的な時間管理が不可欠です。特にスタートアップは予期せぬ事態が発生しやすく、緊急対応を求められることもあります。
実践ポイント:
- 週あたりの作業時間を明確に設定し、カレンダーにブロックする
- 緊急時の対応方針を事前に決めておく
- 優先順位の高いタスクに集中し、委任可能なものは権限委譲する
4. 専門知識の体系的な提供
大企業やコンサルティングファームでの経験から得た専門知識を、スタートアップのコンテキストに合わせて提供することが価値創出のカギとなります。理論や過去の経験をただ適用するのではなく、そのスタートアップの状況に合わせた実践的なアドバイスが求められます。
実践ポイント:
- 知識やノウハウをドキュメント化し、組織内で共有する
- チームメンバーに対するトレーニングや知識移転を積極的に行う
- 企業規模や成長フェーズに合わせた解決策を提示する
5. 長期的な関係構築
副業CxOは一時的な関与で終わることもありますが、関係性を長期的に構築することで、より深い経験と実績を積むことができます。
実践ポイント:
- 定期的な進捗報告と成果の可視化
- 創業者やコアチームとの信頼関係構築
- 自身のスキル向上と価値提供の拡大
副業CxOからフルタイムへの移行 – キャリア発展の選択肢
副業CxOとしての経験は、将来的にフルタイムのCxOポジションへの移行や、別のキャリアパスへの発展につながる可能性があります。
フルタイムCxOへの移行パターン
- 同一企業での正社員化: 副業として関わっていた企業が成長し、フルタイムのCxOとして招聘されるケース
- 別のスタートアップへの転職: 副業での経験を活かして、別のスタートアップのフルタイムCxOとして転職するケース
- シリアルCxO: 複数のスタートアップで副業CxOを経験した後、その実績をもとにシリアルCxOとしてのキャリアを構築するケース
実際のキャリア移行事例
事例1: 大手金融機関勤務から副業CFO、そして専業CFOへ 大手金融機関で財務企画を担当していたEさんは、副業許可制度を活用してスタートアップのCFOとして週10時間程度関わり始めました。1年間の活動で会社の資金調達を成功に導き、事業が急成長するフェーズで専業CFOとしての参画を打診されます。検討の結果、そのスタートアップに転職し、現在はIPO準備を主導しています。
事例2: コンサルタントからシリアルCOOへ 大手コンサルティングファームに勤務していたFさんは、副業として2社のスタートアップでCOO業務を支援。業務効率化や組織設計で成果を上げた実績が業界で評価され、複数のスタートアップから声がかかるように。最終的に独立し、現在は複数のスタートアップの経営管理を支援するアドバイザーとしてのキャリアを確立しています。
副業CxOの未来と市場動向

副業CxOという働き方は今後さらに普及が進むと予想されます。その背景には以下のような要因があります:
1. 政府のスタートアップ支援策の強化
日本政府は「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、10兆円規模の投資計画を発表しています。このような政策により、スタートアップエコシステムがさらに活性化し、経営人材の需要も増加すると予想されます。
2. 大企業の副業解禁の流れ
大手企業でも副業を解禁する動きが進んでおり、専門知識を持つビジネスパーソンがスタートアップに関わる機会が広がっています。この傾向は今後も加速すると見られます。
3. オンラインでの協業の一般化
コロナ禍を経て、リモートワークやオンラインでの協業が一般化したことで、物理的な距離を超えた副業の可能性が広がっています。地方在住でも都市部のスタートアップで副業CxOとして活躍するケースも増えているのです。
4. マッチングプラットフォームの充実
副業CxOとスタートアップを結びつけるマッチングプラットフォームやコミュニティが増えており、適切な出会いの機会が増えています。今後はAIを活用したマッチング精度の向上も期待されます。
副業CxOを始めるための実践的ステップ
副業からスタートアップの経営管理に携わりたいと考えている方へ、実践的なステップを紹介します:
ステップ1: 自己分析と強みの明確化
まずは自分自身の専門性や強みを客観的に分析しましょう。どのような価値をスタートアップに提供できるのか、具体的に言語化することが重要です。
実践ポイント:
- 過去の業務経験から、特に成果を上げた領域を洗い出す
- 専門的なスキルや知識を棚卸しする
- 第三者から見た自分の強みをフィードバックしてもらう
ステップ2: ターゲット業界の絞り込み
興味や専門性に基づいて、関わりたい業界やビジネスモデルを絞り込みましょう。自分の知見が最大限活かせる領域を選ぶことで、より大きな価値を提供できます。
実践ポイント:
- 過去に携わった業界や、個人的に関心のある分野をリストアップ
- その業界のスタートアップ動向をリサーチ
- 業界特有の課題や経営管理面での特徴を把握
ステップ3: ネットワーキングとマッチング機会の創出
副業CxOの機会は公募されていないケースも多く、人的ネットワークを通じて見つかることが少なくありません。積極的にスタートアップコミュニティに参加し、関係構築を図りましょう。
実践ポイント:
- スタートアップ関連のイベントやセミナーに参加
- 副業CxOのマッチングプラットフォームに登録
- SNSでの情報発信を通じた専門性のアピール
- VC(ベンチャーキャピタル)とのコネクション構築
ステップ4: 本業との両立を確保するための準備
副業を始める前に、本業への影響を最小化するための準備をしっかりと行いましょう。法的な制約や時間管理の計画を立てることが重要です。
実践ポイント:
- 会社の副業規定を確認し、必要であれば許可を取得
- 週あたりの稼働可能時間を明確にする
- タスク管理ツールを活用した効率的な業務遂行の準備
- 本業とのスケジュール調整の方針を決める
ステップ5: 小さく始めて実績を積む
いきなり大きな責任を伴うポジションではなく、アドバイザーや個別プロジェクトからスタートし、徐々に関与度を高めていくアプローチも有効です。
実践ポイント:
- まずは短期的なプロジェクトやスポット相談から始める
- 具体的な成果を出し、信頼関係を構築してから役割を拡大
- 定期的に関与度やポジションの見直しを行う
まとめ – 副業CxOというキャリア選択の可能性
副業からスタートするスタートアップ経営管理の経験は、キャリア構築における新たな選択肢として、多くの可能性を秘めています。リスクを抑えながらスタートアップ経営に関わることで、経営視点の獲得や専門性の発揮、社会的インパクトの創出など、様々な価値を得ることができます。
特に経営管理の領域では、CFOやCOOなどのポジションで副業から始めるケースが増えており、専門知識を持つビジネスパーソンにとって魅力的な選択肢となっています。明確な役割設定と期待値の共有、効率的な時間管理、専門知識の体系的な提供などのポイントを押さえることで、副業CxOとしての成功確率を高めることができるでしょう。
副業での経験を積み重ねた先には、フルタイムのCxOへの移行や、複数のスタートアップを支援するアドバイザーとしてのキャリアなど、多様な発展の可能性が広がっています。政府のスタートアップ支援策や副業の一般化といった社会的背景も追い風となり、副業CxOという働き方はさらに普及していくことが予想されます。
自身の強みを活かし、興味のある業界やミッションに共感できるスタートアップと出会うことで、キャリアに新たな次元を加える挑戦を始めてみてはいかがでしょうか。副業からのスタートは、新たなキャリアへの扉を開く第一歩となるかもしれません。